蜂蜜博物誌

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舞台『朱を喰らうモノの月』(2018年)_感想

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 応援している俳優・八島諒さんの初主演作品『朱を喰らうモノの月~標月島編~』を観劇しました。すっかり斜に構えた大人なのでタイトルが発表になった当初は「なんだこの厨二感は。えらいタイトルバイバイだな」と心配になったり不安になったりすることもありました。なにせ原作のない作品で、かつ劇団のように一定の評価がみえるものでもない。出演者への信頼のみで臨んだほとんど未知数での観劇です。

今となっては、そうやってファンが一方的にネガティブな気持ちを募らせているあいだにも、作り手は一丸となって作品づくりに励んでくれていたんだなあと反省することしきりです。朱月面白かった!!しばらくサボってた二次創作活動を再開したいなと思うくらいに!!

1.朱月ってどんな作品?

少年漫画です。誤解を恐れず言えば、昔懐かしい設定ガバガバな勢いで読めちゃう少年漫画。タイトルは高校生の作ったケータイサイトなんだけどフタを開けてみたら聖闘士星矢だった。題材はロマンチックなのに「ようは小宇宙なのです」で解決しちゃうアツい作品。島のつま弾き者だった主人公が仲間を守るために成長していく王道展開です。王道だからこそそれぞれのキャラクターの個性が立っていて、限られたシーンから登場人物のひととなりがよくわかる。

アクションシーンがメインの舞台を観たのははじめてでした。劇中の見せ場として申し訳ばかりに添えられた「カッコイイ」殺陣は知っていたけど、殺陣がこんなにアツいものだとは知らなかった。少年漫画のバトルシーンのようにアクションそのものが面白い。「生身の人間がCGもなく挑むアクションなんてたかがしれてるんじゃないか?スピード感や人のものならざる超越感は、とても殺陣だけで表現できる代物ではないのでは?」そんな先入観を吹き飛ばすくらい夢中で魅入ってしまいました。

登場人物は総勢19名。これだけの人数にも関わらず、シーンの切り替えに一切の過不足がない。ないがしろにされる人物はいないし見せ場もある。逆に、キャラクターのために存在してストーリーの足を引っ張るような蛇足はひとつもない。ネームとして完璧。ただし、そのぶん決定的な情報の不足も目立ち、意図的なのか片手落ちなのかは判断しかねる部分もあったのですが、そんな脚本の魅力と不完全さも昔懐かしのマンガっぽいなあと却って愛着を感じています。

2.登場人物について

 アラン(八島諒)

よそさまの感想を検索したら「標月島の天使」「太陽」「光」等々呼ばれていて最高だった。八島諒さん演じる、明るくて純粋でまっすぐな主人公。朱月のキャラクタービジュアルが発表されたとき、ご本人の人柄とかけ離れた役どころなのかな?と想像していたけれど、イメージぴったりのハマり役でした。

舞台『弱虫ペダル』以来、いろんな役を演じるのを見てきて、八島さんの不思議だなあと思うのはどの役柄もまるで八島さん本人と錯覚してしまうこと。もちろん普段「八島諒」としてファンに見せてくれる姿とまったく違う振る舞いなんだけれど、演技と一切感じさせない自然さがいつもあること。芝居っ気のある役者さんて一挙一動にエンターテイメント性があるけれど、八島さんは「生まれてからこういう風に成長したんだな」と錯覚させる役者さんなんだと思います。アランもご本人とは違うはずなのに、八島さんそのものに見えてしまう。『スペーストラベロイド』のときも「大ウソつきにも関わらずこのある意味まっすぐなところ、育ち方を間違えた八島さんだな……」と思ったし。

アランの他人を恨まない人柄は、八島さんだから説得力を持って受け止められたのかなと思っています。乱暴な言い方をしてしまうと、アランのキャラクターメイクは「加害者側にとって都合のいいマイノリティ」と受け止められかねないものでした。あきらめとはいえ自らの被差別性を受け入れていて、メギドナの有用性をもって島の仲間に貢献するアランは、そのやさしさのぶんだけ心無い人々に利用され易い。

設定だけ見ればだいぶ危うい描き方のように感じたものの、作中で「利用する他者」として人間が浮上したこと・彼らを無邪気に受け止めていたアランにラストわずかばかりの陰りが見えたこと・ほかでもない八島さんがアランに嘘のない命を吹き込んだこと、いろんな要素が重なって、斜に構えた自分でもすんなり主人公像が入ってきたのかもしれません。

本当に演じるのむずかしいと思うんですよ「いい子」って。悪性よりも善性のほうがあっというまに「芝居」を見抜かれてしまうから。でもアランは非の打ちどころもないほどアランで、完璧で、仕上がりが自然すぎて、観劇後言うことが浮かばなかったほど。だって彼は生まれながらのアランだったんだから。

はじめてメギドナを覚醒させて暴走したシーン。初見のまだよく世界観を飲み込めてなかったとき、一気に引き込まれるきっかけをつくってくれた大好きな場面。迫力があって、魂が込められていて、あらためて暴発する感情を表現させたら世界一だと思った。千秋楽のラストバトルも気持ちの込め方が尋常じゃなくて鳥肌が立った。八島さんのファンでよかった。立派な主人公で座長だった。世界一かっこよくてかわいい300歳児だった。ジュドがいつまでもアランを子ども扱いしちゃうの、わかる。

イザナ(松村泰一郎)・ローレル(騎田悠暉)・ジュド(登野城佑真)

イザナとローレルの関係がきらいな女なんていなくない…?て初日後のたうち回りながら過ごしてたらを回追うごとにふたりに萌え萌えしてる人が増えていったの今年最大の「ダヨネー!」でした。ローレルがイザナを在り方の異なるライバルとして意識してるの萌えるし、イザナがローレルをからかったりペリエに襲われてるのを楽しそうに傍観してるの萌えるし、仲悪そうで信頼しあってるところも萌える。エッずるい……なにこれ……禿げる……。

戦闘後イザナがおっさんみたいに「つかれたぁ~!」って言ってるのすごく好き。アランの頼りになる年齢不詳のおじさんって感じでとてもチャーミング。あの飄飄としたカッコよさ、みんな好きでしょ。演じる松村さんはカーテンコールのときに八島さんをいつも見守ってくれていたのが印象的でした。千秋楽で八島さんの涙にもらい泣きしてたのバッチリみたぜ。超超いい人。

ローレルを演じる騎田さんはビジュアルも立ち振る舞いもすべてが美しくて完璧なローレルそのもの。アランのことは邪見にしてたけど、彼の父親であるヴィラルのことは尊敬していて、人一倍島のことは想っていて、一匹狼で自由奔放なイザナとは対照的に忠誠心や帰属心の厚い人。一方でイザナやヴィラルの前ではアランの生まれを理由に責め立てるようなことは言わなかったと思うし、イザナもアランが凹んでいた理由を「シオンか」と断定していたし(「ローレルもだよ!?」ってめちゃくちゃツッコミ入れたかった)そういうところに人間関係が垣間見えて奥行きを感じました。保守的な正義感を理由にした排他性に、わずかでもヴィラルの息子であるアランを気に掛ける気持ちがあったのか、それはわからないけれど、なんだか可愛い人。

みんな大好き冷静で頼れる相談役ジュドさん。たぶん朱月いちばんの被害者。じつは島の禁忌おかしてるわ脅迫を受けるわ操られるわ「もっと冷静な人だと思ってました」とか言われちゃうわ散々なんですけど、その弱さを抱えた二面性、みんな大好きでしょ……。私は大好き……。

ブライに「一番吸血鬼らしい」と言わしめたのは月一回のお食事なんだろうけど、アクションもすごく吸血鬼っぽい。ゆったりとブレない足さばきや体幹、鎌首をもたげた蛇のような手つき、まるで拳法みたいで登場人物の中でも異質だったように感じました。そしてシオンの怪しげな「記憶をなくす」薬を利用する冷徹さがあると思いきや、「他者を操る薬」には抵抗を感じる心の柔らかさ。アランの力を拙速に利用しようとしてサトナに咎められるくらい余裕がなかったのだから、「他者を操る薬」くらい検討に入れてもよかったのに、それはできなかったんですよね。戦力増強と倫理観の板挟みになっていたジュドにとってアランの「おれを信じて」は救いの言葉でもあったのかなあと思いました。

イザナに比べるとアランに対して一歩引いたように見えたジュドだけど、怪我をみつけて心配したり、最初から最後まで彼を「子ども」と扱っていたり、アランからは「親父より頼りになる」と信頼されていたり、劇中に描かれなかった部分でアランと交流があったのかなと想像膨らみます。「子ども相手にムキになって」とか「子どもは早く寝ろ」とかアランを子ども扱いするの、あたたかくて本当に好きでした。でも、300歳って、ヴァンパイア的に本当に子どもなんだろうか……アランの成長が遅いだけとかないだろうか……

サトナ(小俣一生)・シオン(蔵田尚樹)・ヴィラル(浅倉一男

アランの親友サトナくん。ボウル被ってたり、父と子の話でギャン泣きしてたり、ペリエ戦で「やったー!」って昇竜拳してたり、なんかもうかわいい。あと脚が細い。少年漫画やアニメによくいる、熱血主人公の傍らに立つ頭脳派ボーイ。演じる小俣さんはスラッと大人っぽいのに劇中ではアランと同世代の子どもにしか見えなかった。事前放送の『りぷっthena』観てたけどぜんぜん印象が違った。

シオンは友人の言ってた「CLAMPの世界の住人」がこれ以上ないほどしっくりくるビジュアル。脚が小枝。世界観に欠かせないご都合主義的便利アイテムを提供してくれる朱月の屋台骨と言っても過言ではない。まったく戦えなさそうなところがまたかわいい!彼の発明は結局ヴァンパイア側の足を引っ張ってしまったし、アランをいじめるし、ぶっちゃけ外野でキャンキャン言ってるだけだし、そういうところがますます愛しくなっちゃうおいしいキャラ。最終的にカイルの面倒みちゃうのズルくないですか!?蔵田さんがTwitterにあげたアナザーストーリー動画やばくないですか!?ありがとうございます!需要をわかってる!

ヴィラルパパ。あいさつで「アランが成長したらこうなるんじゃないかと(八島さんを)研究していた」と話されていたんですが、父親役を演じるにあたりそういう役作りもあるのかと目から鱗でした。振り返ればたしかにお茶目だしちょっとふわふわしてた。アクションも歴戦の勇者の肉弾戦!血がたぎる!って感じでカッコよかったなあ。友人がツッコミ入れててコーヒー吹いたんだけれど人間から逃げ隠れる程度には身体が痺れていたのに女は抱けるその気合がすごい。パパやるじゃん。

ブライ(古川龍慶)・トール(酒井昂迪)・グリア(春川真広)

アランの叔父さんにしてラスボスのブライ。メギドナの力に価値を見出したり、できれば生かしておきたいとも取れるような言動があったりしたのは、彼の有用性に着目しただけではなく、わずかでも肉親の情があったらいいなあと願ってしまいました。「守られているアランが羨ましい」と言ったのは母親代わりの姉を殺されて独りになってしまった想いが込められていたのかな、とも。千秋楽のバトルの感情の猛りがすさまじくて鳥肌立った。

ただ「ヴァンパイアと食人鬼の500年に渡る戦い」と語られながら、ブライが食人鬼と化したのがアランの生まれた300年前だと判明したの、観ている人たちだいたい首を傾げたんじゃないかなあ。もしかしたら標月島の住人が認識している「ヴァンパイアと食人鬼の戦い」とブライはあまり関係がないのかもしれない。例えば、食人鬼はブライのように後天的に発生するもので、彼らのコミュニティはすでに出来上がっており、そこにブライは引き入れられた。ヴィラルへの復讐心を抱くブライとヴァンパイアに敵対する食人鬼たちの利害が一致したため、彼らは行動を共にしていた。そもそも、「人を食べることで人外の力を得る(=食人鬼になる)」「食人鬼に噛まれた人間もまた食人鬼になる」ことを最初に発見したのがトールだった……とか。いろいろ想像しちゃいました。

「食人鬼は500年ヴァンパイアと戦っていた」物語の根幹に関わる設定にも関わらず、その理由は明かされなかったり、明かされたブライの動機は私怨にとどまるものだったり、むしろブライの言うことが食人鬼VSヴァンパイアの真実ならかなり設定と矛盾しない?説明不足じゃない?と思わされたり。そういうところは朱月の脚本の爪の甘いところだなあと思いました。前述のとおり、続編や裏設定を見越しての意図的なものか、単なる片手落ちなのかは判断つきかねるんですけど。登場人物の露出に関わるバランスが神がかっているぶん、構築された世界観を観客に提示するテクニカル面での拙さは本当に惜しかった。

そんなこんなでトールは裏ボスだと思うんです!人間の仮装をするとき、カイルには七五三かってくらい気合を入れていたのにペリエにはローコストだったのが面白かった。歪んでいるかもしれないけど、トールなりにカイルを可愛がっているような印象を受けました。「ボクが立派な食人鬼にしてあげようねえ」くらい思ってたんじゃないかな…。続編が来たらトールはぜったいカイルをさらいにくるしワンチャン食人鬼に戻そうとしてシオンと対決するに花京院の魂を賭けよう。

グリアの体温を感じさせない食人鬼らしさがとても好き。かと思えばトリートメント云々、幽遊白書の鴉みたいな台詞で耽美さを醸し出してくるからあなどれない。単純に戦いが好きだったボルコや、働きたくないけど仲間への情で動いていたルークと違って、「ヴァンパイアとの対決」をいちばん意識していたのはグリアだったんじゃないかな。初出のビジュアルといちばん印象変わったのがグリアだと思う。テラシマさんモードのつなぎが好きです。

ボルコ(阿部大地)・ルーク(石井涼太)・ペリエ(久保田浩介)・カイル(船橋拓幹)

 ボルコとルーク、やんちゃな子猫の兄弟みたいで本当に可愛かった!ボルコ役の阿部さんは華奢な体格で強いボルコを演じることを不安に感じていたようなお話もあったんですけど、骨っぽくて華奢で小柄だからこそ(びっくりするほど顔が小さい)ファンタジーのキャラクターめいた異能さがハマったんじゃないかなと思います。それこそ阿部さん以外のボルコが想像できないくらい。戦闘ジャンキーみたいなキャラだけど死んだふりもできる二面性がすごくいいキャラ。朱月がジャンプのマンガだったら人気投票上位に食い込んでた。

ルーク役の石井さん、正直申し上げて女の子かと思った。えっ男ばかりの座組って言ってたし男性だよね…?と何度も目を疑った。しかも1987年生まれの30代だった。「ウソやん!!!!!だって女子校時代の同級生にあんな子いたよ!?!?!?」ってびっくりした。新しいもの好きで仲間想いのルークはかわいかったなあ。基本的に働きたくない現代っ子だけど仲間に流されがち。最期はまるでボルコを庇うように倒れたのが印象的でした。

みんな大好きペリエちゃん。「柴田亜美のマンガでこんなキャラ山ほどいたな!!雌雄同体ってイトウくんか!!南国少年パプワくんか!!」って思ってますます朱月が懐かし少年漫画のイメージに……。もちろん「性的にふるまうオネエキャラ」のステレオタイプな表象は当事者にとって必ずしも面白いものではないし、作り手にとっても「これを出しておけばウケる」イージーで便利なアイコンでしかないことは、作品に関わらず常に抱いている批判です。それでも演じる久保田さんが回を追うごとに「ペリエちゃん」に命を吹き込んでくれた印象があって、脚本だけでは表現できない奥行きが生まれたのかなあと感じました。特に千秋楽、サトナに「ブス!!」と言われて「知ってるわよ!!!!」「これでも頑張ってんのよ!!!!」と言い返したのは最高だった。世界中の女を代弁した。本当にいい女に仕上がったなあ。

カイルを演じる船橋さんはすごく上手い役者さん。カイルとしてあんなにおどおどしてるのに、いやあなたそれだけじゃないよね!?と初見で目を見張るくらい。可愛い子どものお芝居から一点して「血の匂い」と反応したり、「ぼくは人間だ」と叫んだりするところ、本当に人が変わったようだったし、セリフの裏返りもまるで声優さんみたいに安定してレベルが高い。あれだけで底力を感じるには十分でした。前述のシオンとのアナザーストーリー可愛かったなあ。次回作があったらトールにさらわれて食人鬼に戻されてアランと涙のガチバトルしてほしい。

福江健(久保瑛則)・桐森亘(黒木歩夢)・野崎誠(宮本圭介)・花栗モミジ(咲楽星太)・鮫瀬稔(隅田滉太郎)

初出のビジュアルをみたとき「妖怪研究会ではなく妖怪では?」と疑うほど写真から醸される圧の凄まじかった人間チーム。幕が開いたら妖怪じゃなかったけど別の意味で圧の凄まじかった人間チーム。見せ場のシーン、舞台を観にきたな~!って感じがあってとても好きでした。いきなり自転車漕ぎだしたときは「ペダステに出演している八島さんが主演だからかな?」と笑ってたんですけど間髪入れずにソニックランのフォームに入って音速を超えたので「これ中の人に西田シャトナーファンがいるぞ!!!!!!」と確信しました。面白いよね破壊ランナー。ざっくりした説明を肉声やマイムで表現するところもシャトナー作品っぽくて故郷に帰ってきたような安心感に包まれました。演じる側は緩急がとても大変だったと思う。

オンナやらカネやら欲望に忠実な人間(というか異性愛男性)は、標月島の気高い面々に比べるとしょーもないほど俗っぽくて、悪と呼ぶには愚かさの勝る汚さもあって。ひとりひとりは苦笑いしちゃうほどチャーミングなんだけど、心無いだけの俗物の集まりが、いちばんどうしようもなくて。ヴァンパイアたちが人間と対立したのは吸血行為だけじゃない、そういう価値観の違いもあったのかなあと想像させられました。

3.続編やって

「標月島編」と銘打っていたりあからさまに「To Be Continued....」な終わり方だったのでふつうに考えたら続編を仄めかしているように感じるんですけど、たぶんそれも含めた演出なんだろうなと思います。だから野暮とは思いつつ、いち観客としての気持ちを示しておきたい。

続編やって~~~~!!

応援する八島さんの初主演が朱月で本当に幸せだったなあ。終わり。