蜂蜜博物誌

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pixiv社のハラスメント問題を受けて:関係書籍やリンクの紹介

pixivユーザーである筆者が、pixiv社内で起きたトランスジェンダー女性への役員による性加害及びSOGIハラスメントやそれを巡る会社の対応(参照:https://www.bengo4.com/c_18/n_14525/)を受けて、関係するさまざまな課題について説明をされている書籍や参考リンクなどを紹介する記事です。本記事は筆者のpixivアカウントからリンクを貼るために作成されました。

まえがき

大前提として、相手のアイデンティティによらずセクシャルハラスメントは許されません。ただし、当該事例では相手が性別移行の経験があることを理由に、加害者から被害者に対してその被害を矮小化する発言がなされています。これは明らかなトランスジェンダー差別であり、無理解と偏見に満ちた二次加害です。

ハラスメントの背景には複数の権力関係があります。権力関係とは「上司対部下」などの当事者間のものに留まりません。ジェンダーセクシャリティエスニシティなど、社会構造の中の権力関係が大きく影響しています。

ハラスメントの防止にはこれらの横断的な理解や、そもそも性的な加害がなぜ起こるのか、その背景にある権力関係や差別とは何なのかを知ることが大切です。たとえば「性加害は性欲によって引き起こされる」というのはよくある偏見ですし、そうした誤解は解決に繋がらないのみならず、本来は関係がない物事にスティグマを与えるものです。

個別の事例に声をあげることは、誤った対応を是正したり、世の中に一定の理解や了解を求めたりする効果があります。同時に、趣味を楽しむ私達もまた、何かしらの組織の構成員だったり、誰かの隣人であったりする以上、人生のどこかでハラスメントの事案に関わることになります。

であれば、あらかじめ蓄積された知識に触れていることは、ハラスメントへの何よりの抵抗になるのではないでしょうか。どんな人にも、これからの人生で困ったことに対峙したとき、より良い選択をする手助けが与えられてほしいと思っています。

一覧の中には、一見直接関係がないと思われるものも含まれているかもしれません。

というのも、性加害・性差別・トランスジェンダー差別などの問題は、基本的な人権や尊厳の考え方なくして解決・理解することはできないからです。そのためには横断的な学びが不可欠ですし、実際にあらゆる人権課題はお互いに影響を与えあって運動されてきた経緯があります。*1

作成した一覧が、学びの一助になれば嬉しいです。

映像コンテンツ

ナショナル ジオグラフィック『ジェンダー革命』

性差を巡る言説の中で、当たり前のように用いられる「生物学的」「身体的」という言葉があります。このドキュメンタリーではその指している範囲がいかに恣意的で、科学に根差したものとかけ離れているか、ジェンダーサイエンスの視点から読み解いていきます。当事者の姿や周囲の人々・支援者の姿から多くを学べます。

tv.apple.com

GLAAD受賞作!ジェンダーについて考える『ジェンダー革命』がディズニープラスにて4月23日より配信 - フロントロウ -海外セレブ&海外カルチャー情報を発信

Netflixトランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして 』

私たちにも馴染みの深い表現の中に、現実のトランスジェンダーへの偏見を強化し、当事者のメンタルヘルスに影響を与えるようなものがあったとしたら? このドキュメンタリーはハリウッド作品を扱っていますが、日本の漫画やアニメ・ドラマにも振り返るところがあるかもしれません。(関連するものにNetflix「ミス・レプリゼンテーション: 女性差別とメディアの責任」がありますが、現在日本では視聴できなくなっています。)

www.youtube.com

https://www.netflix.com/jp/title/81284247

You Tubeジェンダークリティカル | ContraPoints』

政治評論家ナタリー・ウィンのYou Tubeチャンネル。世の中に溢れているトランスジェンダーへの差別言説に、ユーモラスに反証していく動画です。既にそうした背景を知っている人向けの、やや上級者向けの内容ですが、ジェンダー課題や女性差別に興味を持った人がインターネットで情報にアクセスしようとしたとき、トランス排除を念頭に置いた「フェミニズム」に出会ってしまう可能性が高いため、少なくともこの記事を読んでくださっている方は一聴をおすすめします。他にも「男の娘はゲイか?」(正確には、男の娘やトランスジェンダー女性を好きになった男性は「男性同性愛者」になるのか?)など、自身の性別移行経験を踏まえたリアルな視点からの解説は圧巻です。一部を除き設定から日本語字幕が表示できます。

youtu.be

Netflix『ミス・アメリカーナ』

テイラー・スウィフトのドキュメンタリー。彼女は右翼の崇拝する女性のシンボルでしたが、数年前に(右派の共和党ではなく)左派の民主党支持であることを明言したことでアメリカ社会を驚かせました。保守的なカントリーミュージック界で活躍していた彼女が、摂食障害や卑猥な誹謗中傷、セクシャルハラスメントと戦う中で、自らの意見や立ち位置を世間に堂々と語る決意に至るまでの軌跡です。ハラスメントの根底にあるものは社会の女性蔑視であることを突きつけられると同時に、とても勇気がもらえます。

www.youtube.com

コミック(エッセイ、フィクション)

花嫁は元男子。(ちぃ)

作者さんのブログはLGBTQA+の基礎知識の解説や、作者さん自身の性別移行経験が、かわいい四コマ漫画になっていてとてもおすすめです。:俺の嫁ちゃん、元男子。(ちぃのGID-MtFの4コマブログ)

女の体をゆるすまで(ペス山ポピー)

ジェンダーフェミニズムメンズリブセクシュアリティ

図解雑学ジェンダー(ナツメ社)

何年か前に内容を改訂した新版が出ていますが、同じISBNのため旧版との区別ができません。中古ではなく新本がおすすめです。

はじめて学ぶLGBT 基礎からトレンドまで(ナツメ社)
よくわかるジェンダースタディーズ(ミネルヴァ書房
フェミニズムってなんですか?(清水晶子)
フェミニズムはみんなのもの(ベル・フックス)
私は女ではないの?(ベル・フックス)
女性のいない民主主義(前田健太郎)
#Me Tooの政治学(大月書店)
増補 刑事司法とジェンダー(牧野雅子)
ひれふせ、女たち:ミソジニーの論理(ケイト・マン)
科学の女性差別とたたかう(アンジェラ・サイニー)
LGBTとハラスメント(集英社新書
性別違和・性別不合へ 性同一性障害から何が変わったか(針間克己)
トランスジェンダーを生きる:語り合いから描く体験の「質感」(町田奈緒士)
誰かの理想を生きられはしない:とり残された者のためのトランスジェンダー史(吉野 靫)
ノンバイナリーがわかる本(エリス・ヤング)
非モテ」からはじめる男性学
マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か(杉田俊介
男が痴漢になる理由(斉藤章佳)

人権・差別の考え方

差別の哲学入門(シリーズ・思考の道先案内1)
差別はたいてい悪意のない人がする(キム・ジヘ)
無意識のバイアス(ジェニファー・エバーハート)
日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション(デラルド・ウィン・スー)
インターセクショナリティ(人文書院
人権と国家(筒井清輝)
身近に考える人権(ミネルヴァ書房
障害者差別を問い直す(荒井祐樹)
ヘイト・スピーチとは何か(岩波新書
レイシズムとは何か(梁 英聖)

リンク集

情報・啓発サイト

はじめてのトランスジェンダー trans101.jp – トランスジェンダーについての情報サイト

LINE公式アカウント開設のお知らせ – はじめてのトランスジェンダー trans101.jp

VOGUEと学ぶフェミニズム | Vogue Japan

石壁に百合の花咲く

テーマ別情報・窓口 | NHKハートネット

www.nhk.or.jp

www.nhk.or.jp

ウェブ記事

性暴力の被害者が、驚くほど「自分を責めてしまう」理由(小川 たまか) | 現代ビジネス | 講談社(1/6) 

性犯罪の加害者は、なぜ「被害者のほうが悪い」と本気で弁明するのか(小川 たまか) | 現代ビジネス | 講談社(1/6)

「ミソジニー」って最近よく聞くけど、結局どういう意味ですか?(江原 由美子) | 現代ビジネス | 講談社(1/6)

スポーツにおける「公平性」とは何か? ~トランスジェンダーの競技参加から考える~|杉山文野(すぎやま ふみの)|note

表象はなぜフェミニズムの問題になるのか 小宮友根 | WEB世界 

小田嶋隆氏「『女性差別広告』への抗議騒動史」の何が問題なのか? - ふぇみにすとの論考

音声メディア

TBSラジオ荻上チキ・Session』

公式ホームページ以外にもPodcastApple Music、Spotify)やラジオクラウドなどでアーカイブを聴くことができます。

「LGBT理解増進法案の行方と課題」松岡宗嗣×清水晶子×二階堂友紀×鈴木みのり×荻上チキ×南部広美 

「ヘイトスピーチ解消法から5年、差別禁止法の現状と課題~コロナ以後、社会をどう設計していくか?」 明戸隆浩×荻上チキ×南部広美

「性同一性障害のトイレ制限裁判、二審は逆転敗訴」遠藤まめた×荻上チキ

「自民党、LGBT理解増進法案提出を見送り」文字起しあり

「LGBTQへの差別発言で、自民党に署名を提出」

「生活と世界を見直すための<フェミニズム入門>」清水晶子×荻上チキ×南部広美

「神道政治連盟の会合で性的マイノリティへの差別冊子を配布。この問題の背景にあるものとは?」松岡宗嗣×塚田穂高×荻上チキ

「日本の宗教右派とジェンダー」斉藤正美(富山大学)×山口智美(モンタナ州立大学)×荻上チキ×南部広美

差別言説へのより踏み込んだ読解のために

以下のリンクは、国内・海外問わず活発になっているトランスジェンダー差別を受けて発信されたものです。

特にTwitterでは、「女性の安全」という名目でトランスパーソンの排除を正当化する傾向があります。そのため、性加害やハラスメントに関心がある人ほど、そうした主張をする人々の言説に触れやすい環境になってしまっています。

アイデンティティを理由にその属性を持つ人々を犯罪者予備軍として扱い、排除をすることは、さまざまな属性に対して行われてきた典型的な差別といえるでしょう。しかし、トランスジェンダーに対してそうした差別を合理性のある考えかのように広める人々は、前提とする知識やものの考え方に、間違いがあることに気づいていません。あるいは、「間違っていても責められたくない、なぜなら……」というままならない気持ちから反発が芽生えるのかもしれません。

それらをひとつひとつ解きほぐすことは容易ではありません。だからといって、攻撃を受けているマイノリティが「自分は犯罪者予備軍ではない」という当たり前のことを言うためだけに、中傷する相手に複雑な説明を課されてしまうことは間違っています。(人間、自分がどういう存在なのか、だれにも説明することはできないのに、性的マイノリティ当事者だけは、ときに科学者が研究に取り組んでいるような事柄に説明を求められるのです)

社会課題を理解するためには、ただ単に知識を得るだけではなく「自己覚知」や「文章理解」の技術が必要です。物事を知ろうとしても「自分がどういうテーマに反発したり、逆に惹かれてしまうのか」という思考の癖をコントロールすることができなければ、情報に対して偏った審判的態度を取ってしまいます。また、一見筋が通っているような言説でも、そもそも前提がデマゴーグや偏見だったり、論理展開が藁人形論法・過度の一般化などの誤謬だったりするかもしれません。

こうした情報理解・受容の技術は、相談援助の専門的訓練を受けたり、信頼性の高い書籍の文章を読み慣れたりする中で養われるもので、決して簡単なことではありません。ですが、既に差別言説に応答し、反証している人々から、ものの考え方や知識、反論の勇気をもらうことはできます。

苛烈な差別言説が多く引用されている記事もあるので、心の健康に配慮しながらの閲覧をおすすめします。当事者はもちろん、非当事者でも明らかな差別や悪意には削られてしまうので、無理をしないでください。同時に、危機的状況を受けて発信をされているすべての皆さんに感謝を申し上げます。

〈情報提供〉

Trans Inclusive Feminism – トランスフォビアへの抵抗とトランスインクルーシブなフェミニズムのためのリソース集

トランスジェンダー差別をしたくない人のための書籍・記事紹介 - Privatter 

トランス差別に抗していくためのブックリスト - Privatter

〈排除言説の概要・経緯〉

threadreaderapp.com

後回しにされる「差別」 トランスジェンダーを加害者扱いする「想像的逆転」に抗して - wezzy|ウェジー

トランスジェンダーの経験の複雑さを、どう伝えるか - wezzy|ウェジー

すでに隣人である私からすでに隣人であるあなた達へ - ゆなの視点

お茶の水大学と杉田水脈:LGB(T)の2018年|夜のそら:Aセク情報室|note

何故トランスフォーブとの対話は不可能なのか? - 鴉の爪

安全な空間と不適切な身体 - 東アジアのクィア・アクティヴィズム | 

http://ttps://jig-jig.com/serialization/fukunaga-quaia-activism/fukunaga_extra/ https://left-stand-homerun.tumblr.com/post/642227513536446464/韓国現代フェミニズムにおけるterfトランス排除的ラディカルフェミニスト批判文化科学20

〈差別言説への応答〉

「女性」でなく「生理のある人」と呼ばないとトランス差別? 〜よくある疑問への回答〜 - Transgender+Gay

「トランスを排除しないと女性スペースの安全は保てない」は主張として正当性を保てるか?その主張はフェミニズムか?|ぽてとふらい|note

MtFの女性専用スペースの利用について、ひとりのMtFが考えたこと - 帰ってきたみふ子の真夜中日記

【翻訳】「トランス女性は女性じゃない」論の間違いをすっぱぬく ― ジュリア・セラーノ(翻訳: イチカワユウ、協力: 佐藤まな)

transinclusivefeminism.wordpress.com

〈その他〉

無題 - Privatter

終わりにかえて

SNS上では、日本に限らず、攻撃的な言説が日々拡散されています。

最近では、女性が多い二次創作界隈にもそうした言説が蔓延しており、すてきなキャラ語りをしていたTwitterアカウントの発言を遡ったら差別言説を山ほどRTしていた……という場面に出くわすことが多くなりました。

思い出すのは、2010年前後のTwitterでは二次創作アカウントでも、平気で隣国を巡るひどいフェイクニュースを流している人が多かったことです。今は、少なくとも二次創作アカウントに限って、私の身の回りでは減っているように思えます。

ひとりひとりのリテラシーが高まり、ネット上の差別言説に歯止めがかかることを願っています。そして、オフラインの世界でも、あなたが目の前の誰かにとって、ハラスメント被害やほかの難しい悩みを打ち明けられる、そんなひとりでありますように。

*1:なるべく広範に基本的なテキストを掲載したつもりですが、筆者の勉強不足もあり、児童・高齢者・先住民・部落・ハンセン病・戦時被害・貧困にまつわる書籍が掲載されていません。良いものを見つけ次第追加します。