蜂蜜博物誌

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映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)_感想

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原題の直訳は「釜山行き」 娘を別居中の妻の元に連れていくため、日本の新幹線にあたる高速列車に乗ったファンドマネージャーのソグ。自らの利益や一人娘のためならば何を切り捨てても構わないと考える徹底的な合理主義者だった彼は、周囲が次々とゾンビと化すパンデミックの惨状の中、次第に柔和な父親としての顔を取り戻す。

極限の環境の最中、利己主義と利他的行為のはざまで揺れる人間ドラマとしての見応えは、ゾンビ映画の緊張と焦燥に何一つ陰りを落とさない。一方で、徴兵制を基盤に頼もしい武力を持つ自国が、状況次第では非武装の自分たちにも銃口を向けるだろうリアリズムにも容赦がない。前日譚にあたるアニメーション『ソウルステーション/パンデミック』にもその警告は込められている。たった30年前まで軍事政権下にあった韓国。それはシビリアン・コントロールに対する疑いや不安かもしれない。劇中でヨンソクが「感染しているかもしれない」ソグたちを自らの車両に入れることを拒んだように、社会防衛の大義名分さえあれば、ひとは容易に他者を排斥できるのだから。

スアンが父親に聞かせたくて練習したはずのアロハ・オエは彼女自身の生きている証として自らの命を救った。「一歩間違えていたら」国家を背後にした人間の手により、罪のない子どもと妊産婦が殺されていたのかもしれないと考えると背筋が凍る。生き延びた喜びと残酷なIFが同居する終わりは不思議と美しいと思った。