蜂蜜博物誌

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舞台『team』(2019)_感想

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100点un・チョイス!の舞台を見るのはこれで3作品目になる。直近で観劇した2019年版『誰かが彼女を知っている』も今回の『team』も舞台美術が抜群に良い。間近で見ればリアルな場が板の上にあって遠くから見ればセットひとつひとつの山稜のようなラインが美しい。舞台美術といえばZ-Lionの化け物じみたディテールに圧倒されるが、リアリティと抽象を両立した多賀慧氏のデザインも計算され尽くしていて好きだ。

内容は「コメディ」を期待し過ぎて肩透かしだった。キャラクターの半数は面白いが(山中翔太演じる種田やイジリー岡田演じる勅使河原が演技力も申し分なく最高だった)残りはシリアスだし、せっかく良い意味で様子のおかしい辻枝に唐突な芸人ネタを披露させるのはいろいろと台無しな気がする。そもそも物語自体が生真面目で皮肉に欠けた。「舞台裏を描いたコメディ」であれば舞台裏の様子を大袈裟に脚色したり皮肉ったりするのが看板通りだろうが「リアリティがある」と演者たちが口々に語る物語は正直物足りない。コメディではなくリアル路線でときどき笑える「いい話」として見ていたら評価にかかる印象が違ったと思う。『誰かが彼女を知っている』の環境音や黄昏のリアリティとサスペンスの塩梅は最高だったから。

舞台監督・戸根の面白さは無口で憮然とした彼があんがいロマンチストで情熱的だったことに起因すると思うので、二丁目だのオカマだの男同士だの差別的なツッコミは余計だと思った。一真を押し倒したときのセリフ、私だったら「えっなにこれ? おにいさん激しくない? こんなのR指定じゃない? どういう舞台よこれレーディング設けてないんだけど!?」とかにするかな……別の意味でマズいかな……。ていうかこの手の指摘は他作品の感想でも佃煮にできるほどしてきたんですけど、その度に作り手たちは最近のヒット作の美点を活かす気はないのかと首を傾げてしまう。たとえば2017年のコメディ映画『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』ではバーチャル世界で太っちょおじさんになった女の子がとある青年に恋をする。それを巡る「笑い」の取り扱いは受け手の感性に委ねられて登場人物が差別的な態度を取るものではなかった。

一度表現の豊かさを知ってしまうとマイノリティをピエロにしてあざ笑うやり方に固執するのは作り手の引き出しの問題だと思う。女性を巡るからかいやがらせを面白いものとして扱うシナリオが横行する劇団系の舞台の中でアンチョイにはそうしたノイズが(見た限りでは)ないことを評価していただけに少し残念だった。セクハラを面白がる作品を避ける筆力があるならゲイ的な行為を笑いものにしないネタも書けると思う。2.5以外にも女性の見易い舞台が劇団系にも増えて欲しいし、欲を言えばほかでもない女性作家が率先して生み出してほしい。

事故や身内の不幸や体調不良を押してでも公演を行うべきか?という作中の葛藤は演者だけではなく観客の問題でもあると思った。興行中止にかかる金銭的な損害という生々しい「最大の理由」を除いたとしても演者たちのプロ意識や納得を問うだけで済む話ではない。他者の不利益を踏み台にする消費を肯定できるほど私たちは無責任ではなくなってしまった。娯楽の選択肢が星の数ほど溢れた時代、観客は良い作品を見たい願いと同じかそれ以上に「よい消費者」でありたい欲望がある。

とはいえ興行という仕事の形態でいったい何が「搾取」でいったい何が「プロ意識」なのか、その線引は難しい。観客もこれは悪しき消費なのか甘受してもいい消費なのか迷っている。制作側の「リアリティ」に基づいた「プロ意識」の高い「いい話」に両手を上げて感動しようにも観客は脛に傷の多い共犯者だ。当人たちが納得していても他者である観客がそれを無批判に肯定するのは倫理にもとる。稽古や撮影で事故があればそれは観客の痛みになり責任になる。だからこそ私は『team』の支え合い以外の要素―――自らを犠牲にして作品を完成させようと頑張る姿―――に「それでいい」と言って感動する観客にはなれなかった。それでも「そんなことしなくていい」とは言い難い。そこまでしなくては興行が成り立たないような仕組みを生きているのは他でもない演者なのだから。苦い共犯者としての自分は作り手たちの達成感とほど遠いところに座りながら物語を楽しんだり首を傾げたりしている。

お気に入りの登場人物は意外と(?)演出家の玉出だった。初見は彼の時代遅れパワハラムーブに胃がキリキリした。慎重な正論を語る若者に理不尽な根性論!典型的な藁人形論法!ダメなもんはダメで説明もしない!耳を傾けずに威圧する!ダメだこのおっさん!みんな逃げて!みたいな。けれど仕掛けがわかって観る二度めには彼にニヤニヤし通しだったのだから面白い。玉出には若い役者たちの、従順とも違う生真面目さが想像できなかった。顧客の反応が見えるネットの世界を熟知しているが故の緊張感もわからなかった。マチズモに観客を巻き込めた時代から遠く離れた感性を予想できなかった。玉出は強気な言動でお茶を濁しながら作戦が破綻しつつあることに焦っていたはずだ。「最大の演出ってね!」と得意げに笑いながら(かわいい)そのあたりをまったく想定できてなかった能天気はむしろ愛おしい。元妻であるアイテムと口癖が似ているのもかわいい。萌える。プランクできないのもかわいい。やっちまったおじさんかわいい。

 

 

蛇足。公演前アナウンスで「面白くなくても笑ってね!演者の力になるから!」的なものがあったんですけどジョークとはいえちょっとあんまりだと思いました。笑いも涙も感想も感動もすごくパーソナルなものだからこそ価値があるのに接待を求めるのはいかんでしょ。大多数にウケなかった場面でもツボって笑ってくれた少数を周囲が桜扱いしかねないお膳立てはマズいと思う。それとは別に「私が良いと言ったらおべっかではないから自信を持て!」と伝えられる心意気で観客をやりたいです。